自分は特別だと思うことが特別なことではないと気づいた時、人は大人になっている。
そんなことを考えつつ、新幹線の車窓からバカみたいに青い空を眺めた。イワシ雲がところどころに散らばっていたからか、子持ちししゃもを食べながらビールを飲みたいと思った。イワシじゃないんかい。
今でこそこんな余裕をかましている私ではあるが、実はさきほど一悶着あった。簡潔に語ろう。
朝8時35分品川着の東海道線から降りようとした時、太った眼鏡のおっさんが通せんぼしてきた。「すみません降ります」と威厳のある口調で言おうとしたが、満員電車で疲弊していたからか、「すぅひませぇん、降りまぁぁす」となった。STAP細胞かい。
太った眼鏡のおっさんは、「こんなふにゃふにゃ野郎を品川で降ろしてたまるか」みたいな顔をして足を踏ん張っている。でも僕は8時47分発新大阪駅行きの新幹線に乗らなあかんのだよ。
そう。「イワシじゃないんかい!」「STAP細胞かい!」というツッコミは、新大阪へ向かうという目的があり、それが潜在意識下へ侵入し、川崎生まれ(ヒップホップ育ち)の僕を関西人に変えてしまったのであった。
「すみません。降ります!」よし。今度は強く言えた!「痛みに耐えてよく頑張った!感動した!」ほど強くはなかったけれども、太った眼鏡のおっさんには聞こえたはずで、というか「いや、品川ってターミナル駅ちゃうんかい。お前がどこ行くかしらへんけどな。ドア付近のお客様はいったんホームに降りるんが常識ちゃうんかい?おぉぉん!?」と言う気持ちが相手に伝わらない程度の強さで。ていうか何ですみませんって俺が言わなあかんねん。悪くないのに。あかん。まだ関西弁引きずってるわ。
太じいはこれ見よがしに「チッ」と舌打ちをして、でかいケツを起点にして体を右回転させた。「いや降りんかい!」と思ったが、ギリギリでその太じいの左側から降りられる。そう思った矢先のことだった。
太バアの出現である。
太じいとの差異を端的に箇条書きにしてみよう。
・性別
・服装
・眼鏡の有無
そう。太った裸眼(or コンタクト)のババアである。年のころ40くらいであろうか。こいつもまた不機嫌そうな顔をしてこちらを睨んでいるんだよなあこれがまた。参った参った。
STAP細胞の二の舞にはならんぞ。と決意を固めた僕は、「すみません。降ります。」と低音を響かせながら太バアに言った。福山雅治 or ショーンKを彷彿とさせる低音である。
太バアは、デカいケツを起点にして体を左回転させた。
そう。品川駅ホームへ続く道ができたのである。
モーセが海を切り開いたかのごとく、私は悠々と品川駅のホームへ降り立った。
新幹線のホームに向かう途中、「帰りに嫁と子供に551の豚まん買ってってやろう」と僕は思った。
そして今、新幹線は小田原を通過し、僕は子持ちししゃもを食べたいと思っている。
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